城さんの散歩道

 捕物帳小説をしきりに読んでいた時期があった。野村胡堂さんの随筆集『胡堂百話』を読んだところ面白く、そこから興味を持って『銭形平次捕物控』に限らず広く捕物帳小説を読んだ。  一九八〇年代後半私は奈良県内の私立高校に通う学…

母たちの足許

 村岡花子さんの評伝『アンのゆりかご―村岡花子の生涯』は第二次世界大戦時の空襲のこんな場面から書き始められている。  三方向に火の手が上がり、残る大森駅方面の方角に逃げるしかない、と思い定めた花子は書斎の蔵書に別れを告げ…

家船の影

 江戸時代までと明治以降、第二次世界大戦前後、日本は文化の断絶のような事態を起こした。受け継がれてきた文化や技術といったものが価値観の激変をきたしたことによって、あたかも役に立たないものであるかのように打ち棄てられようと…

はじめに

「東京は坂の多いまちである」というラジオから流れてくることばを、行ったことのない、行くつもりもないどこか遠い場所の観光案内を読むような気分で地方の受験生として聞いていた瞬間を思い出すことがある。その東京の坂を自分も毎日の…